2026/3/12
・女性の映画監督第一号である坂根田鶴子の生涯を、溝口健二との出会いから、彼女が亡くなるまでをまとめた本。
・長々と彼女の日記が引用されていたり、多くの資料や聞き込みから作られたノンフィクション。
・ただし、筆者の創作と思われる坂根田鶴子の内面描写が至るところにあったりする。
・特に溝口に対する愛情描写はメロドラマっぽい。
・「田鶴子はせき止めていた溝口への恋情がわきあがるのをどうすることも出来なくなっていた。(p159)」とか、「かつて千枝子に、溝口に甘えたように甘えてみたかった。(p215)」とか。
・ただ、筆者の妄想と切り捨てるには引用や資料が多いし、読者としては読みやすくなっているのはたしか。
・調べすぎて筆者がイタコ化していると受け取る。
・知らない言葉や当時の風俗が沢山出てくる。「俳優てっぱりにて延期」は俳優のスケジュールがだぶること。
・雨待ちで延期になるのは、屋根がトタンだから、雨音が撮影に支障が出るくらいうるさい。
・木炭バスで一酸化中毒になりかけたエピソード。木炭バスなんてあったんだ。
・坂根や溝口の肉筆の手紙も掲載されている。日本語で書かれているのにクセが強すぎて全く読めない。当時の人なら当たり前に読めたんだろうか。
・戦時中のエピソードも多く出てくる。
・開戦による不景気や国の統制はあったものの、坂根はかなりギリギリまで映画業界で働いているし、1942年に満州に渡航してからは高給取りだったと言っていい。
・1942年というと太平洋戦争開戦済み。戦時中は常に死ぬか生きるかの過酷な環境と思いがちだけど、必ずしもそうではない。経済的余裕があればなおさら。
・戦争が浸透し始めている現在と重なって、全く他人事ではない。
・比較的恵まれた環境で過ごした田鶴子でも、満州から日本に帰るときにはかなり恐ろしい目に遭っている。青酸カリがお守り代わりとは。
・これだけ色んなことを経験し技術も身に付けた彼女でも、晩年は必ずしも穏やかではなかったようだ。
・溝口健二に「天井ください」とお願いするのは、唐突すぎて面白い。
・人生にハッピーエンドはないとして、老いや孤独、最期に向けてどう過ごせよいのやらと考えてしまう本だった。
